若手海外派遣(防災科学技術研究所・三反畑修さん)の報告を掲載しました
SF地震学 若手研究者海外派遣報告(Stanford大学)
三反畑 修
防災科学技術研究所/JSPS特別研究員(PD)
ポスドクとしての三年目を迎えた2022年春、4月18日から7月6日にかけて、数年来の念願だった米国・Stanford大学での滞在研究を行う機会を頂きました。新型コロナウィルスの蔓延によってすっかり遠く感じられていた米国滞在は、慌ただしくも有意義なものとなりました。
今回の主要目的地であったStanford大学では、Eric Dunham准教授との共同研究によって、「トラップドア断層破壊」と呼ばれる火山性地震のサイクル・シミュレーション手法の開発を行いました。トラップドア断層破壊とは、カルデラ火山の地下に長い時間かけて(slowに)蓄積したマグマの過剰な圧力が作り出す地殻内応力場によって、カルデラ内に既存の断層構造が一気に(fastに)破壊して発生する、カルデラ火山特有のSlow-to-Fastな地震現象で、地震学・火山学にまたがる広範な知見が同時に必要となります。広い地球物理現象に対する深い知見を持つDunham准教授との共同研究は、2019年春(当時私は博士学生)に東大地震研で初めて議論を交わして以来長らく準備してきていたもので、滞在中の目標は明確でした。週一回のDunham准教授との濃密なミーティングを通して、具体的な研究課題や手法について議論をし、コード開発を進めていきました。Stéphanie Chaillat博士(訪問研究員/ENSTA Paris)や、小澤創博士(ポスドク研究員)、Taiyi Wang氏(PhD学生)、さらにはPaul Segall教授とも議論をしながら、効率的に研究を進めることができました。試行錯誤しながら書いたコードで初めて地震を再現できたときには、Dunham准教授から “Welcome to the earthquake cycle simulation!” という(感じの)お言葉を頂き、なんとも感慨深く感じたものです。帰国後も共同研究は続いており、新しい研究の有意義なスタートアップとなりました。
滞在期間の中盤には、PC画面にへばりついてばかりの研究活動を離れ、California州北部からOregon州南部にかけて広がる断層・火山帯への野外巡検に参加し、北米大陸西部の多様な地質や地形に触れる機会を得ました。Klamath Falls周辺の巨大な正断層崖や、Crater Lakeの巨大なカルデラ湖などを巡検し、本物の「地球」を目の前にしながらその成因や地形解釈をめぐってSimon Klemperer教授や学生たちとともに活発な議論を繰り返しました。 5日間で2、000kmを超える車移動、宿泊はシャワーなしの野外キャンプ、というなかなかクレイジーな旅程を約20人の学生・研究員の大所帯で乗り越えるという、貴重な経験を(強烈な頭の痒みと日焼けとともに)得ることができました。そんなこんなで、帰国時には心身ともに燃え尽きたような感覚を覚えながら、Stanford大学での二ヶ月の滞在を無事に終えました。
今回の米国滞在では、2019年夏に滞在研究をしたカリフォルニア工科大学へも再訪し、当時行った研究に基づく研究成果についてセミナー発表を行い、多くの有益なフィードバックを頂き、有意義な議論を行うことができました。前回訪問時には、自分の研究を進めることや孤独な生活を打破することに精一杯だったこと(注)を思い起こすと、当時の苦労が報われたように感じました。さらには、Seattle近郊で開催されたアメリカ地震学会にも現地参加し、Washington大学のWilliam Wilcock教授らと海底地震・火山観測に関する議論を深く交わすなど、総じて成果の多い滞在となりました。
三年ぶりの米国での時間は、日々地道に進めてきた研究を通して世界が広がっていくという、研究者という仕事の魅力の一面を、今一度思い起こす有難い時間となりました。今回の渡航に際しては、念願だった共同研究に胸を躍らせる一方で、世界的にコロナ禍が未だ収まらない状況にあることで、私自身の不安は大きなものでした。そのような中で、渡航実現のために背中を押して送り出してくださった、齊藤竜彦さんをはじめとする防災科学技術研究所・地震津波防災研究部門の皆様、安全な渡航のためにご尽力頂いたSF地震学関係者・事務局の皆様、防災科研の平山明子様および研究推進課の皆様に、改めて感謝申し上げます。この渡航を通して得た経験・成果を通して、研究分野の発展へと貢献できるよう今後も精進していきたいと思います。
(注)詳しくは「地震学会ニュースレター第72巻4号」p48–49をご参照ください。