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活動報告

若手海外派遣(東京工業大学・柴田律也さん)の報告を掲載しました

SF地震学 若手研究者海外派遣報告(カリフォルニア工科大学)

柴田 律也
東京工業大学理学院地球惑星科学系D3

 2022年10月1日から2023 年2月28日まで丸5ヶ月間にわたって、カリフォルニア工科大学地震研究所(以後Caltech地震研)に滞在し、Weiqiang Zhu博士およびZachary E. Ross博士と共同研究を行いました。5ヶ月の滞在期間ということで、それまでメインで研究していた波形インバージョンによる断層滑り分布推定から少し離れて、機械学習手法を用いた前震の検出と前震活動の地震活動解析を行う新たな研究プロジェクトを立ち上げました。地震がどのように開始するのかについては現在もなお解明されておらず、前震が突発的に本震を引き起こすCascade modelと、本震震源付近の非地震性滑りが進展することで本震破壊につながるpreslip modelが提唱されています。また、岩石実験からはこの2つのモデルの複合モデルも提唱されています。一概に全ての地震がいずれかのモデルに当てはまるということはないと思うのですが、「実際のところどのように本震に至るのか?」という問いは私にとって大変興味深いサイエンスですので、観測の観点から核生成過程について研究をしてみることにしました。

まず、現地でRoss博士と話し合い、Zhu博士の開発した地震波ピック手法であるPhaseNetを適用して、前震シグナルを検出することになりました。この手法を適用するにあたってはZhu博士に多大なご助力をいただきました。例えば、私がバグで苦しんでいる時にZhu博士のオフィスに訪れると、もの凄い早さで解決していただき、そのようなやりとりを繰り返しているうちに、スムーズに手法を使いこなせるようになりました。また、手法のパラメタ設定を変えながら検出性能を比較していった際も、種々の議論を通して順々に研究をステップアップさせることができたと思います。Ross博士とは全体的な方針を話し合い、検出した前震系列を評価する方法に関してアドバイスをいただき、現在も連絡をとりながら継続的に取り組んでいます。この研究は、2023年5月に開催される日本地球惑星科学連合で発表する予定です。

私自身の研究以外の面でも充実した滞在を送ることができました。例えば10時から11時にはCoffee hourという、地震研の研究者がぶらぶらと立ち寄って直近の地震活動や興味深いトピックについて語り合う時間があり、ほぼ毎日参加していました。特に、2023年2月にトルコで巨大地震が発生した後はこの話題で持ちきりで、地震研の研究者が精力を上げてこの地震の解析をしている様子を目の当たりにし、震源過程について研究している身として乗り遅れていられないなという思いが強くなりました。水曜・金曜には地震研のセミナーがあって、多い時は月曜にもセミナーがありました。水曜日のセミナーでは私も研究発表を行い、この時初めて地震研の一員になったような気がしました。このようにCaltech地震研には非常に多くの議論の場があり、刺激的な経験を得ることができました。また、Ross博士のグループミーティングにはもちろん参加していたのですが、さらにNadia Lapusta博士やZhongwen Zhan博士のグループミーティングにも潜り込ませてもらって、それぞれ数値シミュレーションやDistributed Acoustic Sensing (DAS)といった地震学における最新技術の造詣も深めることができました。一方で、長くアメリカで生活していると、時折どうしても日本語を話したくなる時があり、そのような時は金森博雄博士とインバージョンや核生成過程、さらにはトルコ地震などについて議論しました。

Caltech以外にもカリフォルニア大学ロサンゼルス校のLingsen Meng博士、カリフォルニア大学サンディエゴ校のWenyuan Fan博士、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の谷本俊郎博士、Chen Ji博士のもとを訪問し、私が修士課程から研究している波形インバージョンについて議論を交わしました。議論をさせていただいた方々は、震源の物理や波形インバージョンに精通した研究者達でしたので、私の研究をブラッシュアップする上で重要な意見やアドバイスをいただくことができ、非常に有意義な時間でした。また、2022年12月にシカゴで開催されたアメリカ地球物理学会(AGU)にも参加し、こちらでは初めて国際学会で口頭発表を行いました。しかし、それまでの2ヶ月間で英語が常に周りにある環境に慣れたおかげで、恙無く発表を終えることができ、成長を実感できた一幕でした。

滞在期間中は、もちろん研究に没頭していたのですが、時折息抜きとして車を走らせて様々な土地を訪問しました。例えば、ジョシュアツリー国立公園では、その名の通りジョシュアツリーという固有の木が砂漠に多数分布している様子を見ることができました。ジョシュアツリーは他にも、山を越えたり谷を通り抜けるたびにその植生が変化する面白い土地で、地中の水の含有量が大きく変化することがその一因のようです。このような自然公園は何もかもがとにかく広大で世界のスケールの大きさを感じるには十分でした。また、シェアハウスで同居していた学生はCaltechのGeochemistryを専門としていたのですが、彼は鉱石採取が趣味で、私も連れて行ってもらってラピスラズリやコランダムといった宝石としても扱われる鉱物を発見しました。他にもハッブルが宇宙膨張の証拠を見つけたウィルソン山天文台など、地震学に限らず、地球惑星科学に通ずる土地を訪れ様々な学びを得ることができました。

このように、カリフォルニア工科大学における5ヶ月の滞在では公私共に充実させることができました。特に、博士課程のうちに新しい研究プロジェクトを立ち上げ、複数の研究を行うという目標も達成できましたし、さらには海外の研究者と議論を交わす経験も得られました。ここで得られた経験は2023年3月のSlow-to-Fast Earthquake Workshop in Taiwanや4月のヨーロッパ地球科学連合大会でもさっそく活かすことができ、英語で会話することの垣根をほとんど取っ払うことができたのではないかと思います。今回得られた貴重な体験は今後の研究へのモチベーションになり、どのような研究者を目指すかという点においても重要なファクターになるのではないかと感じています。最後になりますが、今回の海外渡航において支援してくださったSF地震学関係者みなさま、そして勝手がわからずたくさんの質問により色々とご迷惑をおかけした事務局のみなさまには深く御礼申し上げ、この報告の締めとさせていただきます。

Zachary E. Ross博士(左)と私

金森博雄博士(左)と私