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若手海外

若手海外派遣(産業技術総合研究所・志村侑亮さん)の報告を掲載しました

Slow-to-Fast地震学 若手研究者海外派遣報告

志村侑亮
産業技術総合研究所 地質情報研究部門

2025年5月29日から7月30日までの約2か月間,フランスのオルレアン大学にて在外研究を実施した.本在外研究は,陸上付加体の構造解析やプレート境界物質の高温高圧変形実験を専門とする同大学Hugues Raimbourg氏の受け入れによるもので,今回の滞在を機に共同研究を開始した.
Raimbourg氏はJpGU2026のSlow-to-Fast地震学セッションでの招待講演のため来日していた.そこで本在外研究に先立ち,Raimbourg氏・東大大気海洋研の山口飛鳥氏と共同で,紀伊半島の三波川帯や四万十帯,およびその中の断層を対象とした調査を実施した(写真1).調査の結果,地震発生帯から深部スロー地震までのプレート境界物質(付加体~高圧変成岩)の岩相・構造,およびその変遷を連続的に観察するとともに,過去のプレート境界での断層すべりやそれに関連した流体移動と鉱物沈殿プロセスを記録した断層岩を採取することができた.当初の在外研究計画では,プレート境界物質を用いた変形実験を予定していたが,Raimbourg氏と相談し,今回の調査で採取した興味深い断層岩試料を対象とした解析を研究主軸とし,変形実験に関してはRaimbourg氏やその共同研究者から設備や実験方法のレクチャーを受けることに計画を変更した.

写真1:共同調査時の写真

オルレアン大学では,SEMを用いて断層岩の微細変形組織や鉱物脈の産状の観察するとともに,EPMAやカソードルミネッセンス像を用いて組織や鉱物種ごとに化学組成マッピングを行った(写真2, 3).これにより,地震発生帯から深部スロー地震発生域において断層がどのようなすべり挙動をなしていたのか?その断層すべりに流体移動(+鉱物沈殿)がどのように寄与したのか?を最終的な研究ゴールとして見据え,Raimbourg氏と日々議論を重ねた.私はこれまで,メソスケールからマクロスケール(数m~十数km)の地質構造を対象とすることが多かったため,より小さいスケール(数mm以下)の微細組織観察の経験は乏しかった.Raimbourg氏は微細組織をどのように読み取るのか,どこに着目すべきかなど基礎から私に教育してくれた.特にRaimbourg氏はスケッチを取ることを積極的に推奨した.これは近年の日本の地質学で失われつつある文化である.スケッチを取ることでミクロスケールの組織を俯瞰的に観れるとともに,より大きなスケールとの結びつきも見えてくることを知った.このような断層解析方法をいちから学ぶことができ非常に実りのあるものであり,今後の研究にも活かしたいと思う.

写真2:分析した断層岩のひとつ

写真3:断層岩観察の様子

 

 

 

 

 

今回2か月という比較的長い滞在であったため,ブルターニュ地方で行われたEMPG2025の巡検に参加する機会もいただけた.巡検では,古生代の高圧変成岩や延性変形帯を観察し,海外の研究者と議論することができ非常に実りのあるものであった(写真4).

写真4:EMPG巡検の様子

今回の在外研究では,大学院生時代のようにがむしゃらに一つの研究テーマに取り組むことができ,大変有意義であった.得られた成果を公表できるよう,今後もRaimbourg氏と議論していくとともに,今後の継続的な共同研究も目指したい.今回,Slow-to-Fast地震学から滞在費のご支援をいただくことで在外研究が実現した.ご支援いただいた関係者の皆さま,事務局の皆さまに心より感謝申し上げる.